2019年9月4日水曜日

IASBとFASB、のれんの会計処理について意見交換

IFRSと米国基準は、現在それぞれ別個に改訂されていて、かつてのコンバージェンス・プロジェクトのようにIASBとFASBが共同で基準を設定する活動は行なわれていません。プロジェクトとしての活動はなくなってから、両審議会は年1回ペースで合同会議を開催して、両基準の動向について報告、意見交換を行なっています。

この合同会議の場は、あくまで意見交換の場に過ぎず、何らかの意思決定が行われることはありません。でも、毎年の会議を見ていると、この会議の場で話題になったことが今後の基準設定の場でも大きく取り上げれられる場合が多く、「国際的な会計基準の潮流」の先端を垣間見られると私は思っています。


2019年7月に開催されたIASBとFASBの合同会議のなかでは、のれんの会計処理に関する意見交換がとても興味深いものでした。

企業結合に関する会計処理は、両基準間に一部差異があるものの、概ね統一されています。企業結合は他の分野よりも差異の縮小が意識されてきたと思います。

しかし、今回の意見交換では、両審議会がそれぞれが異なる意図で異なる方向性を目指している印象を受けました。特にのれんの減損テストに対するスタンスには大きな違いが感じられます。

両審議会ともに、のれんの減損テストには問題があるという認識は同じで、コストがかかる割には適切な減損損失が認識されず便益は不十分、と考えています。

IASBでは、当初、減損テストのより効果的な手法の開発を目指しました。減損テストの新しいアプローチの開発を検討しましたが、複雑すぎて現実的な手法に展開できず、さらにはのれんの償却処理の復活案もありましたが、これらは却下されました。減損テストは現行の枠組みを維持する方針です。その代わりに開示の充実を図ることとしています。

開示の充実に関しては、FASBから疑問や質問が多く述べられました。FASBの端的な指摘は、IASBの方向性では

「減損損失を認識するほどではないが、企業結合が想定通りにうまくいっていない」

というメッセージが企業から発せられることになり、それが市場に対して適切なメッセージとなるのか、という疑問と共に、有用な情報を提供するにはより吟味が必要であるのではないかということでした。

FASBからは開示の充実に対して疑問視する声が多い印象ではありましたが、FASBもかなり関心があるように感じられました。

一方FASBでは、のれんの会計処理についてIASBよりも簡素化に重点を置いた検討を進めようとしている報告がされました。実際に、主に非公開企業を対象に、減損テストを2ステップから1ステップの手続に簡素化することや、のれんの償却処理を容認することなど、簡便な処理を認める修正を行っています。

米国内ではそのような簡便処理の適用範囲を公開企業や非営利企業にも広げる要求があり、FASBでは、2フェーズに分けて検討を進めています。第1フェーズでは、公開企業に対しても、減損テストを1ステップの手続で行うことを認める修正を提案し、次の第2フェーズで何を検討すべきか、コメント募集を行っています。FASBは、公開企業に対してものれんの償却を認めるべきかという点も含め、減損テストの手続、開示、無形資産の認識など、のれんの取り扱いについて意見募集しています。

IASBではすでにのれんの償却処理をDPで提案しない決定を行っています。会議の場では、FASBに対して、のれんの償却に対するスタンスを確認する質問が相次いでいました。

FASBでは非公開企業などへの対応を進めるなかで、公開企業でも同様の要求があることが判明し、検討に至ったことが説明されていましたが、のれんの償却がどれだけ支持されているかという点については、米国内でも賛成反対さまざまな意見があり、特に財務諸表利用者からは懸念が多いことにも触れられました。

FASB からは、まだ意見募集の段階であるため、何を審議の対象とするかは未確定であり、寄せられるコメント次第、という話だけでしたが、現段階ではのれんの償却も十分検討の余地を残しているようなニュアンスでした。今後のスケジュールについては説明がありませんでしたが、審議にはそれなりの時間がかかる想定なのではないかと思います。

会議の冒頭で、IASB議長は「IFRSと米国基準の自然な形でのコンバージェンスが達成されることが望ましい」と話していましたが、両者のバランス関係は微妙なところです(あえてそうすることが自分たちの利益になると考えてのことだと思うのですが)。両基準の差異が広がることは多くの人にとって不利益であるのは確かです。今回のような会議の場が今後の基準設定に生かされていってほしいところです。


イージフ 野口