2019年3月4日月曜日

見過ごせない、IFRS17号「保険契約」基準公表後の修正

IASBは会計基準設定主体として、基準を決定して公表しまえばそれで役割が終わるかというとそういうことはなく、初めて公表される基準書は特に、公表後の検討も入念に行われます。すでに最終基準書として公表された後でも、利害関係者(特に適用対象企業や規制当局)の意見収集が非常に重視されています。

日本的な感覚では、会計基準に限らず、公的な文書の最終版を公表するまでにそのような意見収集は終わらせるべきであり、公表後はもう修正しない、できない、というスタンスであることが多いように思います。なので、IFRSについても最終基準書が公表された時点ですべてが確定したと安心してしまう方もいるかもしれません。でもそれはIFRSについては当てはまりません。

現在、IFRS17号「保険契約」は、急ピッチで基準書の修正を検討しています。最終基準書を公表した後に、修正の要否を検討すべき問題が多く指摘されています。すでに、個別問題の検討に先行して、適用時期を2022年に延期する決定もなされました。

IFRS17号は、必ずしも「評判が良い」とはいえない部分もあると思います。世界でさまざまな実務が行われてきた保険会計を単一の基準に統一したのは今回が初めてであり、その意義は十分大きいのですが、その統一された方法が財務報告の方法としてベストなのかというと、それに対して批判もありますし、とにかく企業に多大なコスト負担を強いる結果となっています。

そのような背景もあり、IASBとしては企業の要望にはできるだけ耳を傾け、コストと便益のバランスに配慮することでIFRS17号の有用性を主張する必要があります。このような基準設定の過程においても、強制力を持って適用される一国の会計基準とIFRSのような「国際的な」会計基準の違いを感じることができます。

今回の記事ではもう少しIFRS17号の具体的な問題を紹介します。

IFRS17号の情報提供の「有用性」に欠けると批判される点の一つに、投資部分と保険部分の分離の考え方がありました。

基本的にIFRS17号では、投資と保険は分離して一般モデルを適用します。企業が特定の金額を受け取り、その金額に利息を付けて払い戻すことを約束する金融商品等、純粋な貯蓄と考えられるものを投資要素と定義し、原則としてIFRS9号「金融商品」を適用することになります。

そしてIFRS17号では、直接連動有配当契約といった一定の条件を満たした契約については、例外的に変動手数料アプローチという投資要素を反映した会計処理を定めています。

実際の保険契約では、企業が純粋な保険サービスの提供のみを行なっているとは限らず、投資要素が含まれている場合が多く、内容も多様です。IFRS17号が定める例外処理だけではなく、ほかにも投資要素を含めるべき契約があるはないか、という批判は根強くありました。

そこで、2019年1月のIASB会議では、投資リターン・サービスについては、保険契約に含め、IFRS17号の定める一般モデルを適用する修正を行うことが合意されました。投資リターン・サービスというのは、この会議で新しく提案された言葉ですが、投資要素の中でも単なる貯蓄といえない投資要素を投資リターン・サービスと呼んでいます。

特に投資リターン・サービスについては要件や判断の手続きは定められません。企業が独自に首尾一貫した判断を行い、その見積りや評価も企業が独自に規則的で合理的な方法を採用することが求められるのみとなっています。

審議に割ける時間が非常に限られている中での判断ですので、多様な契約形態に対応できるような規定を作ることは困難なのですが、企業の判断に任せる余地が非常に多く、現実にどのように機能するのか、疑問も残るところです。この決定に対する利害関係者からの意見も重要になってくるのではないかと思います。

まだIFRS17号は予断を許さない状況が続いていますので、今後の議論もフォローしていきたいと思います。


イージフ 野口