2019年11月5日火曜日

IFRS、資本性金融商品の区分について、改訂の方向性は

資本と負債をどのように分類すべきか、という問題は古くて新しい問題だと思います。現状では、IAS32号にある限定的な内容にとどまっており、抜本的な解決策が模索されてきました。資本の特徴を有する金融商品というプロジェクトとして取り組まれてきましたが、プロジェクトの歴史も長く、過去には2008年にディスカッション・ペーパー(DP)が作成されています。

しかし、このDPについてはあまりにも反対意見が多く、さらに当時は他のプロジェクトを優先しなければならない事情もあったので、審議は一旦中断され、その後再び着手され現在に至っています。再着手後の現在のプロジェクトでは、過去のDPにとらわれない新しい取組みとして検討が進められてきました。

そして、2018年6月に公表されたDP「資本の特徴を有する金融商品」は、資本と負債の分類を包括的に規定する意欲的な内容となっています。

DPでは、資本と負債の区分を明確化するために、次の2つの要件のもとで分類を行う新しいアプローチが提案されました。

  • 清算時以外の特定の時点に経済的資源を移転する、回避不可能な義務(時点の特性)
  • 企業の利用可能な経済的資源に依存しない金額に対する、回避不可能な義務(金額の特性)

これら2つの特性のいずれか、または両方を含む請求権は金融負債、いずれも含まないものは資本性金融商品に分類されることになります。

IASBの見解では、このアプローチによって、従来の資本と負債の分類から大きな変更は生じることはなく、現行の実務に対する影響は大きくならないとされていました。特に、IAS32号の例外規定として認められているプッタブル金融商品および清算時にのみ企業の純資産の比例的な取り分を他の当事者に引き渡す義務を企業に課す金融商品を資本として表示する取扱いについては、例外規定もそのまま維持することとなっています。

2019年6月から9月にかけて、IASB会議ではこのDPに対するフィードバックの内容が報告され、今後のプロジェクトの方針についての審議が行われました。

このDPに対する利害関係者からの意見としては、全体的な考え方については概ね賛成であるものの、現行の実務から大きな変更となる提案については反対意見が多く寄せられました。

DPの分類の2要件についても懸念点が指摘されています。

DPのアプローチによっても、多くの金融商品について資本と負債の分類は変わらないとされていますが、実際には変わってしまう場合もあります。たとえば、償還期限のない優先株式で、配当額が固定、未払時に累積するタイプのもの等は、現行では資本に分類されていますが、新しいアプローチでは負債に分類されることになります。

そのことを問題視する声はIASBが想定している以上に大きく、発行者、投資家双方が分類の変更が市場に混乱を及ぼす懸念を示しています。DPでは財務諸表上の資本の表示などについても、大きな実務の変更を伴うような、思い切った提案をしていましたが、そのような内容についても反対意見が非常に多くなっています。

IASBではこのフィードバックを受けて、実務の大きな変更を伴う改訂は控え、現行のIAS32号がより効果的に適用されることを目指す方針を取ることにしました。大幅な基準の改訂は行わず、IAS32号のいくつかの原則を明確化することによって実務上の問題に対処するものとしています。

IASBでは、DPで提案した抜本的な変更による解決は時期尚早であり、今回の改訂を試金石として、長期的な視点で整備をしていくのが望ましいのではないかという考えに落ち着きました。改訂の範囲は狭められることになりますが、DPの内容をどのように取捨選択していくか、具体的な検討は今後進められることになります。


野口由美子

2019年9月4日水曜日

IASBとFASB、のれんの会計処理について意見交換

IFRSと米国基準は、現在それぞれ別個に改訂されていて、かつてのコンバージェンス・プロジェクトのようにIASBとFASBが共同で基準を設定する活動は行なわれていません。プロジェクトとしての活動はなくなってから、両審議会は年1回ペースで合同会議を開催して、両基準の動向について報告、意見交換を行なっています。

この合同会議の場は、あくまで意見交換の場に過ぎず、何らかの意思決定が行われることはありません。でも、毎年の会議を見ていると、この会議の場で話題になったことが今後の基準設定の場でも大きく取り上げれられる場合が多く、「国際的な会計基準の潮流」の先端を垣間見られると私は思っています。


2019年7月に開催されたIASBとFASBの合同会議のなかでは、のれんの会計処理に関する意見交換がとても興味深いものでした。

企業結合に関する会計処理は、両基準間に一部差異があるものの、概ね統一されています。企業結合は他の分野よりも差異の縮小が意識されてきたと思います。

しかし、今回の意見交換では、両審議会がそれぞれが異なる意図で異なる方向性を目指している印象を受けました。特にのれんの減損テストに対するスタンスには大きな違いが感じられます。

両審議会ともに、のれんの減損テストには問題があるという認識は同じで、コストがかかる割には適切な減損損失が認識されず便益は不十分、と考えています。

IASBでは、当初、減損テストのより効果的な手法の開発を目指しました。減損テストの新しいアプローチの開発を検討しましたが、複雑すぎて現実的な手法に展開できず、さらにはのれんの償却処理の復活案もありましたが、これらは却下されました。減損テストは現行の枠組みを維持する方針です。その代わりに開示の充実を図ることとしています。

開示の充実に関しては、FASBから疑問や質問が多く述べられました。FASBの端的な指摘は、IASBの方向性では

「減損損失を認識するほどではないが、企業結合が想定通りにうまくいっていない」

というメッセージが企業から発せられることになり、それが市場に対して適切なメッセージとなるのか、という疑問と共に、有用な情報を提供するにはより吟味が必要であるのではないかということでした。

FASBからは開示の充実に対して疑問視する声が多い印象ではありましたが、FASBもかなり関心があるように感じられました。

一方FASBでは、のれんの会計処理についてIASBよりも簡素化に重点を置いた検討を進めようとしている報告がされました。実際に、主に非公開企業を対象に、減損テストを2ステップから1ステップの手続に簡素化することや、のれんの償却処理を容認することなど、簡便な処理を認める修正を行っています。

米国内ではそのような簡便処理の適用範囲を公開企業や非営利企業にも広げる要求があり、FASBでは、2フェーズに分けて検討を進めています。第1フェーズでは、公開企業に対しても、減損テストを1ステップの手続で行うことを認める修正を提案し、次の第2フェーズで何を検討すべきか、コメント募集を行っています。FASBは、公開企業に対してものれんの償却を認めるべきかという点も含め、減損テストの手続、開示、無形資産の認識など、のれんの取り扱いについて意見募集しています。

IASBではすでにのれんの償却処理をDPで提案しない決定を行っています。会議の場では、FASBに対して、のれんの償却に対するスタンスを確認する質問が相次いでいました。

FASBでは非公開企業などへの対応を進めるなかで、公開企業でも同様の要求があることが判明し、検討に至ったことが説明されていましたが、のれんの償却がどれだけ支持されているかという点については、米国内でも賛成反対さまざまな意見があり、特に財務諸表利用者からは懸念が多いことにも触れられました。

FASB からは、まだ意見募集の段階であるため、何を審議の対象とするかは未確定であり、寄せられるコメント次第、という話だけでしたが、現段階ではのれんの償却も十分検討の余地を残しているようなニュアンスでした。今後のスケジュールについては説明がありませんでしたが、審議にはそれなりの時間がかかる想定なのではないかと思います。

会議の冒頭で、IASB議長は「IFRSと米国基準の自然な形でのコンバージェンスが達成されることが望ましい」と話していましたが、両者のバランス関係は微妙なところです(あえてそうすることが自分たちの利益になると考えてのことだと思うのですが)。両基準の差異が広がることは多くの人にとって不利益であるのは確かです。今回のような会議の場が今後の基準設定に生かされていってほしいところです。


イージフ 野口



2019年8月2日金曜日

IASB、のれん償却の再導入案は否決。その背景は?

のれんの償却を復活させるべきか。IASB内でもこの1年くらいの間に大きく揺れた話題でしたが、IFRS3号「企業結合」の改訂に関連した今回のプロジェクトでは、

「のれんの償却を再導入しない」

という結論が出されました。

2019年6月のIASB会議にて、ディスカッション・ペーパー(DP)での提案内容の採択が行われ、のれんの償却については、長く白熱した議論が展開されました。

プロジェクトでは、現行の減損テストの枠組みでは減損損失の認識が「少なすぎる、遅すぎる(too little, too late)」ことへの対処として、のれんの減損テストを改善する議論がずっと継続していました。その議論では、のれんの償却が積極的に取り上げられている印象はありませんでした。

しかし、現行の枠組みを大きく変更する新アプローチ導入を断念する事態を経て、のれんの償却導入が「苦肉の策」として急浮上し、議論の流れが変わっていきました。結局、のれんの減損テストを改善することができない以上、自動的な償却処理であってものれんの残高を減らす処理を適用することで、巨額の減損損失を回避できるではないか。償却処理に一定の役割を見出す意見が見直されるようになってきました。

議論の最終局面では、のれんの性質をどのように捉えるかという問題に突き当たる指摘が多かったです。のれんは、複雑な性質を有するものの、多くの場合は償却資産として扱うべきであるとする意見や、のれんは擬制的な資産に過ぎないという見解も聞かれ、通常の審議ではあまり見られないような極端な意見の割れ方をしていました。

それでも、議論が収斂されていくにつれ、

「のれんは無限に価値が存続するわけはなく、ほとんどの場合、時間の経過と共に価値は減少していくと考えられるが、耐用年数は恣意的にならざるを得ない」

という見解が共有されていったようでした。

最後の投票では、償却の再導入に反対が8票、賛成が6票となり、僅差での否決となりました。

この決定を受けて、DPでは、のれんの償却の再導入に対する賛成と反対の両論を併記したうえで、再導入を行わない提案が行われることになります。

会議では、IASBがリーダーシップをとり、DPでは自己の立場を明確にした提案を行うべきという考えのもと決定が下されました。審議期間は長くなりましたが、その他の提案事項も含め、ようやくIASBの意見がまとまったことになります。DPは2019年末近辺に公表される予定ですが、IASBの提案に対し、さまざまな意見が寄せられるのではないかと思います。

イージフ 野口

2019年7月5日金曜日

IASB、のれんについて年次の減損テスト軽減を検討

IASBが現在取り組んでいるのれんと減損プロジェクトでは、企業結合に関する

「より適切な開示」

がひとつ大きな目的として掲げられています。しかしそれだけではなく、企業からの要望であるのれんの減損テストの手続軽減も取り下げられてはおらず、議論が続けられています。

どれだけ軽減されるのか、プロジェクト当初の提案に比べると範囲はだいぶ縮小した印象ですが、年次で強制されているのれんの減損テストの実施を免除するという提案は、影響が大きいところであり、注目されています。

2019年5月のIASB会議では、この年次の減損テストが取り上げられました。この時のスタッフの提案は、年次ののれんの減損テストを免除し、減損の兆候のあるときにのみ減損テストを行う、というものです。

その提案に対し、会議では慎重な意見が相次いでいました。

これまでプロジェクトでは、減損損失の認識が「少なすぎる、遅すぎる(too little, too late)」に対処しようとしてきたのに、年次の減損テストを免除してしまっては逆効果であり、簡素化すべきでないという反対意見も根強い印象でした。

しかし、むやみに手続を厳格化することも、望ましいことではありません。議長は、実際に直面している問題は「遅すぎるうえに、巨額になる (too late, then a lot)」と指摘し、簡素化により減損テストの有効性を悪化させるかは簡単に判断できないという認識を共有していました。

議論で特に興味深かったのは、米国基準についての言及が目立ったことです。米国基準では2011年の修正で、減損の兆候の判定のみで減損テストを省略できる任意規定が設けられました。この規定を選択すると、企業は定性的評価により、のれんの公正価値が簿価を下回る可能性が50%超であると判断した場合、減損テストを省略することができます。この規定に関心を持ち、参考にすべきと考える理事は多いようでした。

ただし、米国基準における減損の兆候はIFRSと似ているものの、内容は異なると考えられます。米国基準では、可能性が50%超であるかという基準がありますが、IFRSではのれんが減損している可能性を示す兆候の有無を評価します。また、のれんの簿価と比較する価値がIFRSでは使用価値であるのに対し、米国基準では公正価値である点など、米国基準の規定を参考にする際には留意しなくてはなりません。

のれんの減損テストに関する改訂については、個々の内容をそれぞれ検討するのでは不十分であり、一つのパッケージとして検討する必要があり、この問題を単体で扱うべきではないという指摘もなされました。

議長からはこの問題はIASBの信頼に関わる非常に重要な問題であるという発言もあり、IASBは慎重な判断が求められています。しかし、冒頭でも触れたように、手続の簡素化については当初よりもだいぶ範囲が狭まってしまっていて、現在の提案については基本的に実現を目指して検討が進められるのではないかと思います。6月の会議ではどの予備的見解をディスカッション・ペーパーに含めるべきかを判断し、ディスカッション・ペーパーの公表は2019年後半に予定されています。


イージフ  野口

2019年6月5日水曜日

のれんと減損、新しい開示情報の検討に着手

IASBが進めているのれんと減損のプロジェクト、大きな方針転換があってから一時審議は中断していましたが、2019年4月のIASB会議から審議が再開されています。

のれんの話については注目している方も多いと思いますが、しばらく時間があいてしまったので、これまでの審議を簡単におさらいしておきたいと思います。

このプロジェクトで一番重要視されていた問題はのれんの減損テストでした。投資家からは「(減損損失の認識が)少なすぎる、遅すぎる」という批判があり、もっと減損テストを効果的なものにしてほしいという要求がありました。一方、企業からは減損テストの手続が複雑でありコストがかかりすぎるため、もっと減損テストを簡略化してほしいという全く逆の要望がありました。

この相反する要求の間で、バランスのとれた、有効な解決策を見つけるべく、長い議論が続けらてきましたが、結局、減損テスト自体を改善することは無理、という結論になりました。2018年7月の会議では、減損テストの有効性の向上については検討を行わないことが決定しています。なので、今後も減損テスト自体は存続することになります。

しかし、これだけ減損テストに問題があるのに何も打開策がないというのは示しがつきません。そこでIASBは、代替案を提示することにしました。

減損テストを通して投資家が知りたいと思っている情報を別の形で提供されるよう、開示を充実させるというアイディアです。

のれんの減損を通じて投資家が知りたい情報とは、端的には、企業結合の成否を事後的に評価するための情報と考えられています。

本格的な審議はこれからで、まだ採用の是非は問われていないのですが、以下のような情報開示が必要なのではないかとされています。


企業結合が発生した報告年度における追加開示項目


  • 企業結合の実行の根拠となる企業の戦略(企業の戦略と買収取引の関連性についての説明等)
  • 取得企業と非取得企業のシナジーに関する記述(シナジーの説明、金額(または金額の幅)とシナジーを生じさせるために必要なコストの金額(または金額の幅))
  • 取得日に認識した被取得企業の主な資産および負債の金額(財務活動による負債および年金負債等は区分する)
  • 取得日以降、取得企業の財務諸表に含まれている被取得企業の収益、営業利益(企業の取得に関連する取引および統合の費用を除く)および営業活動によるキャッシュ・フローの金額
  • 企業結合の主要な目的(企業結合を実行した結果、経営者が到達することを期待している目標)
  • 将来の報告年度において、企業結合の主要な目的の到達度を評価するために経営陣が使用する予定の評価指標


企業結合が発生した報告年度とその後少なくとも2報告年度における追加開示項目


  • 経営陣が使用する評価指標の実績値


実際には、多くの企業は現状でも要求される情報量の多さに不満を感じているという状況なのですが、IASBはより具体的な目的を設定し、投資家はどんな情報がどういう理由で必要なのか説明をすることで、企業に理解を促す方針となっています。

日本で話題になっていたのれんの償却の再導入も、今後の検討内容の一つになっています。

のれんの償却については、これまでの審議では減損テストの改善という、上記の議論の中で検討されてきていました。その議論の中では「償却処理は有効性には結びつくはずがない!」という意見が強く、審議を見ていても採用される余地を感じさせませんでした。

しかし現在は、コストの削減という観点で取り上げられています。ただ、手続きの簡素化だけでは説得力に欠けるので、「償却処理によるのれん残高の減少により、のれんの減損へのプレッシャーを軽減することができる」といった他の長所も紹介されています。

米国基準との関係もあり議論内の様子だけで判断することはできませんが、のれんの償却も過去の審議よりは真剣に取り上げれらるのではないかと思います。

まだ具体的な決定事項がない段階の検討内容ですが、議論の方向性も含め幅広く紹介していきたいと思います。


イージフ  野口

2019年5月8日水曜日

IFRSで特別損益の表示を導入。どのような開示になるのか

現行のIFRSでは、非経常項目や特別項目を区分して表示することは禁止されていることはご存知の方が多いと思います。「経常」とか「特別」とか、恣意性の入る余地があまりにも多いと考えられてきたからです。

しかし実際には、経常的に発生しない項目であるか否かの情報は投資家からの要望が以前からありました。そこで現在進行中の基本財務諸表プロジェクトでは、通例でない項目の開示を検討することで合意されています。

会議では「通例でない項目」という言葉が提案されていて、次の定義が支持されています。

通例でない項目とは、類似の項目が将来の数報告年度において発生しないことが合理的に予想できるため予測価値が限定的な収益または費用とする

「通例ではない」とは、性質、金額、頻度の3つの側面があるという考えを踏まえています。

定義の言葉をもう少し詳しくみておきたいと思います。


  • 「将来の数報告年度」とは

他の基準で見られる「予想し得る将来の報告年度」とはあえて異なる表現を採用しています。これは通例であるか否かの判断に、予想し得る将来までを予測の範囲とするのは現実的ではないという配慮があります。


  • 「合理的に予想できる」とは

これは他の基準でも使用されている表現です。他基準と同様のレベルの発生可能性を要求することを明確にしようとしています。


  • 「予測価値が限定的」とは

当該事象または取引が将来の事象を評価するときに有用ではないことを意味しているわけですが、これは概念フレームワークの考え方に基づいています。


また、会議では公正価値を含む現在の価値で測定することが要求されている項目の再測定から生じた利得または損失は一般的に通例ではない項目に分類すべきではない旨を明記することとなっています。

通例でない項目の開示は注記となります。性質別の費用区分に関連づけ金額を表示(図表のような表示方法が想定されています)し、取引の説明の記載も要求することとなっています。


P/Lの内容を充実させることに重点を置いている時点で、現在のIASBの考え方は過去のB/S重視とは大きく違うわけですが、 P/L重視のスタンスが強まるとやはりそもそもあった日本基準の考え方に近いものになってくるようにも感じられます。IFRSもそれほど「遠い存在」に考える必要はないのではないかもしれません。

今後の動向も追っていきたいと思います。


イージフ  野口



2019年4月2日火曜日

IFRSのP/L、どこまで詳細な開示をすべきか

現状のIFRSでは、P/Lの開示項目はかなりあっさりしています。

収益
売上原価
販売費一般管理費
研究開発費 
金融収益
金融費用
持分法による投資純利益
税金費用

大体このような項目が表示され、日本基準よりも集約されていることが多いと思います。しかし、注記などでの開示情報が非常に多いため、IFRSでの開示情報のボリュームはかなりのもの、印象を持っている方は多いですし、実際にそうだと思います。

それがIFRS流の開示、とこれまでは思われてきましたが、今ではそれが「いいやり方ではない」という意見が主流となっています。

有用な情報は、財務諸表本表にわかりやすい形で開示されるべきだし、情報開示を充実させるべきであるからといって、やみくもに注記でなんでも開示すればいいというのはかえって、重要な情報が埋もれてしまってわかりにくく、財務諸表利用者に誤解を与えるのではないか、と改めることが必要と考えられています。

そのような反省が現在進行している基本財務諸表プロジェクトの根幹にはあります。

最近のIASB会議では特にP/Lの表示について多くの検討が行われていますが、いろいろな国のいろいろな業種のP/L表示についての原則を示すことはなかなか難しいところです。

2019年2月のIASB会議では、過去に決定していたP/L項目の集約、分解表示の原則を変更することになりました。

過去の会議では

(a) 類似の性質の情報をグループに分類する
(b) その情報が理解可能で忠実な表現となるように、グループごとに情報を集約または分解する
(c) 注記では、IFRSの開示目的と開示要求に適したレベルで情報を要約する

という原則が支持されていました。「理解可能」で「忠実な表現」となることを判断基準となっており、これでは実務で機能するものなのか不安に感じる方も多いと思います。実際、その後の会議では、

  1. 個々の取引または他の事象の影響を、資産、負債、資本、収益および費用に分類する
  2. 資産、負債等を、特徴に基づいてグループに区分し、基本財務諸表において少なくとも1つの特徴を共有する行項目を表示する
  3. 基本財務諸表に表示する行項目を、追加的な特徴に基づいて区分し、項目に重要性がある場合には、注記において区分開示する

という3つのステップとして示すことになりました。

財務諸表は大量の取引と事象によって生成されますが、個々の取引や事象レベルの情報は有用ではありません。これらを資産、負債等の財務諸表の構成要素に分類し、財政状態や経営成績に関する情報提供を行うことになります。しかし、資産、負債等の総額だけでは情報としては不十分であって、財務諸表利用者はその総額にどのような項目が含まれているのか、情報提供が求められています。

今回支持されたステップには、財務諸表の開示項目、注記が、財務諸表利用者の要求に応えているか評価が必要であるという基本が強く意識されていると思います。

では、具体的にどの程度詳細に項目を分解すべきなのかというと、もう少し今後の議論も見て考えていくべきところですが、日本基準で行われているような項目で開示する企業もあればもう少し細かく開示する企業もある、くらいのレベルになるのではないかと私個人はイメージしています。

今後ディスカッション・ペーパーや公開草案が公表される段階では、よりはっきりわかると思いますが、このような過程での議論を知っておくとより、理解が深まるところだと思います。


イージフ 野口由美子



2019年3月4日月曜日

見過ごせない、IFRS17号「保険契約」基準公表後の修正

IASBは会計基準設定主体として、基準を決定して公表しまえばそれで役割が終わるかというとそういうことはなく、初めて公表される基準書は特に、公表後の検討も入念に行われます。すでに最終基準書として公表された後でも、利害関係者(特に適用対象企業や規制当局)の意見収集が非常に重視されています。

日本的な感覚では、会計基準に限らず、公的な文書の最終版を公表するまでにそのような意見収集は終わらせるべきであり、公表後はもう修正しない、できない、というスタンスであることが多いように思います。なので、IFRSについても最終基準書が公表された時点ですべてが確定したと安心してしまう方もいるかもしれません。でもそれはIFRSについては当てはまりません。

現在、IFRS17号「保険契約」は、急ピッチで基準書の修正を検討しています。最終基準書を公表した後に、修正の要否を検討すべき問題が多く指摘されています。すでに、個別問題の検討に先行して、適用時期を2022年に延期する決定もなされました。

IFRS17号は、必ずしも「評判が良い」とはいえない部分もあると思います。世界でさまざまな実務が行われてきた保険会計を単一の基準に統一したのは今回が初めてであり、その意義は十分大きいのですが、その統一された方法が財務報告の方法としてベストなのかというと、それに対して批判もありますし、とにかく企業に多大なコスト負担を強いる結果となっています。

そのような背景もあり、IASBとしては企業の要望にはできるだけ耳を傾け、コストと便益のバランスに配慮することでIFRS17号の有用性を主張する必要があります。このような基準設定の過程においても、強制力を持って適用される一国の会計基準とIFRSのような「国際的な」会計基準の違いを感じることができます。

今回の記事ではもう少しIFRS17号の具体的な問題を紹介します。

IFRS17号の情報提供の「有用性」に欠けると批判される点の一つに、投資部分と保険部分の分離の考え方がありました。

基本的にIFRS17号では、投資と保険は分離して一般モデルを適用します。企業が特定の金額を受け取り、その金額に利息を付けて払い戻すことを約束する金融商品等、純粋な貯蓄と考えられるものを投資要素と定義し、原則としてIFRS9号「金融商品」を適用することになります。

そしてIFRS17号では、直接連動有配当契約といった一定の条件を満たした契約については、例外的に変動手数料アプローチという投資要素を反映した会計処理を定めています。

実際の保険契約では、企業が純粋な保険サービスの提供のみを行なっているとは限らず、投資要素が含まれている場合が多く、内容も多様です。IFRS17号が定める例外処理だけではなく、ほかにも投資要素を含めるべき契約があるはないか、という批判は根強くありました。

そこで、2019年1月のIASB会議では、投資リターン・サービスについては、保険契約に含め、IFRS17号の定める一般モデルを適用する修正を行うことが合意されました。投資リターン・サービスというのは、この会議で新しく提案された言葉ですが、投資要素の中でも単なる貯蓄といえない投資要素を投資リターン・サービスと呼んでいます。

特に投資リターン・サービスについては要件や判断の手続きは定められません。企業が独自に首尾一貫した判断を行い、その見積りや評価も企業が独自に規則的で合理的な方法を採用することが求められるのみとなっています。

審議に割ける時間が非常に限られている中での判断ですので、多様な契約形態に対応できるような規定を作ることは困難なのですが、企業の判断に任せる余地が非常に多く、現実にどのように機能するのか、疑問も残るところです。この決定に対する利害関係者からの意見も重要になってくるのではないかと思います。

まだIFRS17号は予断を許さない状況が続いていますので、今後の議論もフォローしていきたいと思います。


イージフ 野口

2019年2月4日月曜日

IFRS17号「保険契約」修正が必要か。適用は2022年に延期

IFRS17号「保険契約」は2017年5月に公表され、当初は2021年の適用を予定していましたが、実際に適用準備に着手した企業から、基準自体の問題も報告されています。

それらの報告をもとに、IASBが修正の要否を検討する問題点は25項目になりました。IASBでは、問題の具体的な検討に先立って、適用時期を1年延期し、2022年から適用する決定をしています。個別の問題への対応よりも適用時期が不明な状況を長引かせてしまうことは、企業に不利益となることを配慮した決定です。

その後の審議(2018年12月IASB会議)から、個別の問題の審議が始まっています。25項目のうち本当に基準の行うことになるものは少ないと思いますが、この時の会議では基準を修正する決定がなされています。

修正は保険契約の集約単位に関係するもので、保険契約資産および負債の表示を契約グループ単位ではなく、ポートフォリオ単位で行うというものです。

新基準では、保険契約に一般モデルであるビルディング・ブロック・アプローチ(BBA)を適用します。一般モデルは、契約グループ単位での適用が要求されています。ポートフォリオは類似のリスクで一括して管理される契約で構成される単位ですが、それに対して契約グループは、ポートフォリオより下位の単位で、不利な契約や発行日が1年以上離れている契約はグループを分ける必要があり、さらに細分化することもできます。

IFRS17号では、BBAによる測定、認識方法に整合した表示を行うために、保険契約グループごとに保険契約資産および負債を表示することを要求していました。そのため、将来サービスに関連する履行キャッシュ・フローと過去の発生保険金に係る負債を、グループごとに割り振り、これらの合計金額を保険契約の帳簿価額として、資産または負債を表示することが必要でした。

実際に適用準備を進めている企業からは、従来の実務ではこのようなキャッシュ・フローをグループ単位で把握しておらず、対応には非常にコストがかかるという意見が多く寄せられました。

また、このようなキャッシュ・フローの紐付けによって表示される資産や負債は、キャッシュ・フローのタイミングによって決定されるものであり、グループよりもより大きな単位であるポートフォリオ単位での表示が適当であるとする意見もあります。

審議では、BBAの適用が保険契約グループ単位で行うのにも関わらず、表示のみポートフォリオ単位で行うのは理論的ではなく、概念フレームワークにも反するものだという強い反対意見がありました。このような理論的な不整合が生じることに異論を唱える声はありませんでしたが、キャッシュ・フローをグループ単位に把握するための実務対応のコストは大きな負担となり、そこまでのコストをかけるべきではないという意見が大勢でした。

理論的な正当性はないのですが、実務的な負担に配慮した決定となりました。

基準書の修正の要否については検討が継続される予定で、全ての検討を完了した後、修正事項全体のコストと便益のバランスを確認することとなっています。今回の決定のようなコストへの配慮が重視されていることに注意して、IASBの動向を理解しておく必要があると思います。

イージフ  野口