2018年9月3日月曜日

IFRSにのれんの償却を再導入する案が再浮上。何があったのか

IFRSの改訂で、これほど何度も、しかも大きく方針転換が図られることはあまりなかったのではないかと思います(そう言ってしまうと、IASBは一貫性がないとか、スタンスが明確でないとか、批判する方もいるかもしれませんが、昔は方針転換の議論を行う前にさらっと結論だけ変えてしまうことも見受けられました。そんなやり方に比べれば、国際的な会計基準として、多くの利害関係者に対して開かれた審議が行われている、と私は好意的に感じています)。

IASBは、のれんの償却を再度検討することになりました。

また!?と思われる方も多いと思いますが、どうしてそういう話になったのか、今後の動向を考えるためには、背景にある議論を知っておくことの方が重要です。結論に至った審議の内容をまとめて紹介したいと思います。

これまでの記事でも紹介してきましたが、IASBではのれんの減損が「金額が過小であり、認識のタイミングが遅すぎる」という問題を解決しようと検討を続けていました。しかし、抜本的な解決策を見つけることはできませんでした。

そもそも、のれんの減損テストは、のれんそのものの価値を直接評価することができないのに、減損を測定しようとします。資金生成単位ごとの価値からのれんの減損を推測しているに過ぎません。このような方法を取っている以上、減損テストはコストがかかる割には減損の実態が把握しづらい仕組みになってしまい、利害関係者を満足させられるような有効なテストを行うことは難しいのです。

そこで次善策として、IASBではヘッドルーム・アプローチという新しい減損テストの導入が支持されていました。ヘッドルーム・アプローチは、現行制度よりも早いタイミングでの減損損失を認識する可能性が高くなるので、問題の抜本的な解決にはならないとしても、一定の効果が期待できると考えられていました。


このヘッドルーム・アプローチ、IASBの期待とは裏腹に、評判がよくありません。各国の会計基準設定主体などの強い反発が決め手になったのではないかと思いますが、ヘッドルーム・アプローチを中核にした減損テストの変更を推し進めることができなくなるくらい、強い反対にあいました。

結局、プロジェクトの方針を転換することなり、2018年7月のIASB会議では、改めてプロジェクトの目的が問い直されました。

会議では、ヘッドルーム・アプローチのような、のれんの減損テストそのものの変更より、開示の改善を図る方がより実効性があるのではないか、という視点で開示の問題が取り上げられました。プロジェクト開始当初は、開示の改善だけでは不十分という認識のもとで減損テストの手続きや処理の見直しが支持されたわけですが、現状では当初の目標は達成できないという認識が会議で共有されていました。現実的に今達成可能なゴールを見極める、というのがこの会議の目的でしたが、最終的に今回のプロジェクトの目的を以下の3つに定めました。


1. 開示の改善

2. 使用価値の計算の改善
  • 将来のリストラクチャリングまたは将来の拡張から生じると見込まれるキャッシュ・フローを計算から除外する制限の削除
  • 計算に税引前のインプットを使用するという要求の削除 
3. のれんの会計処理の簡素化

  • のれんの償却を再導入するかどうかの検討
  • のれんの強制的な年次の定量的減損テストの免除の可能性の検討



のれんの減損テストは現状の枠組みを維持することとなり、プロジェクトの最重要課題は開示の改善となりました。そして会計処理の簡素化の観点から、のれんの償却が再び取り上げられることになっています。これはちょっと唐突に思えるかもしれません。

この背景にはFASBの動向があると思います。FASBは、IASBとの合同会議で、のれんの会計処理について簡素化の検討を行うことを示唆しました。のれんの償却も簡素化の一手段として議論する可能性にも言及していたため、IASBとしてもFASB同様に簡素化の観点で検討すべきと考えられたのだと思います。

検討をすることになったものの、IFRSで実際にのれんの償却が再び導入される可能性は低いと思います。この時の会議でも、のれんの償却に関しては、償却期間の決定は恣意的なものになってしまうことから償却費用が有用な情報にはなり得ない、という反対意見は根強い印象を受けました。

プロジェクトの方向性については現実的な着地点が定められた感がありますが、IASBでは多くの利害関係者を巻き込んでいくことが重要と考え(みんな反対意見は声高にいうけれど、そもそもみんなが納得するような解決策はないことを理解してほしい、という切実な思いがあるのかもしれません)、ディスカッション・ペーパーを公表する予定です。どのような形で最終基準としてまとまっていくのか、注目していきたいところです。


イージフ 野口