2018年7月2日月曜日

IFRS: のれんの減損、ヘッドルーム・アプローチは不支持?

IFRSののれんの会計処理が大きく変わろうとしています。それも、今までの決定とは違う方向に変わっていく可能性が高くなってきました。

IASBではこれまで、のれんの減損テストをどのように改善できるのかという観点からの検討を続けていました。さまざまな案(のれんの償却を復活させる、という案もありました)の中から、ヘッドルーム・アプローチという新しい手続きを開発し、のれんの減損の認識が「少なすぎる、遅すぎる」という批判への解決策を示そうとしていました。

ヘッドルーム・アプローチでは、財務諸表上認識されない自己創設のれんなどの存在が減損損失を覆い隠す「ヘッドルーム」になっているという考えのもと、その「ヘッドルーム」の影響を排除することで、のれんの減損損失をより早く認識しようというものです。

審議では、効果は限定的かもしれないが、手続きを煩雑にしすぎることもなく、減損損失をより適切に認識できるのではないか、と支持され、正式な提案を行い意見募集を行うことで合意されていました。

その決定が2017年12月の会議でありましたが、2018年5月の審議ではこの合意が取り下げられることとなりました。

この時の会議では、冒頭から議長自らヘッドルーム・アプローチそのものへの疑問を呈し、議論の口火を切りました。

現行のIAS36号「資産の減損」ののれんの減損テストは十分に機能しておらず、しかも負担の重い手続きとなっていると言われています。しかし、ヘッドルーム・アプローチもこの問題を根本的には解決できているとはいえず、利害関係者からの支持を得ることは困難、というのが議長の意見でした。

経済環境の大きな変化がより問題を困難にしています。IFRS3号が作られてから20年近く経っていますが、時が経つにつれて企業買収がより活発かつ大型化しており、のれんの金額も過去より増して巨額になっています。巨額ののれんが保有され続けた状態で企業の大型倒産が起きた場合、IASBへの信頼は傷つくことになるという危機感が示されました。

このような話が会議で出た背景には、ASAF(会計基準アドバイサリーフォーラム)などでヘッドルーム・アプローチへの支持があまり得られなかったことがあると思います。

ASAFに参加している会計基準設定団体すべてがヘッドルーム・アプローチに反対でした。
主な反対理由は以下であったそうです。

  • このアプローチを採用した際の結果を理解し説明するのは難しい
  • 回収可能価額の把握はコストがかかる
  • 減損の兆候に基づいて減損を認識するというIAS36号「資産の減損」の基本的な考え方を変更することになる
  • 回収可能価額の減少のすべてを獲得したのれんに結びつけるのは理論的ではない

特にコスト面に問題があるという見解を示す団体が多く、代替案としては減損テストの手続きそのものよりも、のれんに関する情報開示の充実を図るべきとする意見が多かったようです。

このような意見に対し、IASBは、情報開示だけの対応では不十分、とIASB会議の場ではっきり回答しています。そのような対応では投資家を納得させることができない、と考えているようです。

では、どうしたらいいのか。

5月のIASB会議でも、さまざまな意見が交わされましたが、これまでの審議と同様に決定的な解決策は見出されませんでした。ただし、ヘッドルーム・アプローチのみを提案し意見収集を行わないと決定しています。今後は、再度代替案を検討し、他の案を併記する形での提案を行うことになりそうです。

ヘッドルーム・アプローチが既定路線として提案がなされると思っていましたが、ここで一旦ストップがかかりました。伝統的にのれんに対しては異なる見方がありますし、その取り扱いは非常にデリケートな問題となっています。解決は簡単ではありません。今回の決定があっても、ヘッドルーム・アプローチは有力な案のひとつとして扱われることになると思いますが、今後の検討にも注目したいところです。


イージフ  野口