2017年1月9日月曜日

保険契約、新基準は公表までわからない?

こんにちは。イージフの野口です。2017年も当ブログをよろしくお願いします。

このブログは開設して8年目になりました。この3年間は、IASBの審議状況を解説する「IASB現地レポート」(「旬刊経理情報」(中央経済社)にて月1回連載中)では書ききれなかったことや、IASB会議を見ていて自分が感じたことを中心に書かせていただいています。

IASB会議を見続けて気付いたことがあります。新しい基準書が出る直前、すでに審議は実質的に「完了」した後に起きることは、意外に大事ではないか、ということです。

新しい基準書に抜本的に改訂するとなると、通常、長い審議期間が必要となります。保険契約については2001年の時点でIASBのアジェンダに上がっており、2004年から今の形態でのプロジェクトが始まっています。2016年1月にようやく実質的に審議が「完了」し、基準書の作成に着手されることとなりました。審議が完了した後も、通常のことなのですが、IASB会議で取り上げられています。多くは、基準書作成のための文言の選択といった細かい点や適用時期などであることが多いのですが、重要な問題が議題になることもあります。しかし、基準書公表のタイミングも近づいているので、意外とあっさりと変更が加えられるパターンが多いと思います。

2016年11月に保険契約が取り上げられた時は、まさにそのような感じでした。

この時の会議では、興味深い議題が2点ありました。1点目は新基準適用時の移行措置で、当初IASBでの合意案では、新基準の適用は、原則完全遡及アプローチ、それが困難な場合は、簡素化されたアプローチに従うこととなっていました。ところが、2016年11月の会議では、修正遡及アプローチと公正価値アプローチの2つの移行措置を許容することになりました。これらの許容されるアプローチは、完全遡及アプローチにできるだけ近い結果を得ることが目的であり、その目的を達成するために、手続きの選択肢が広げられています。

この決定により、新基準適用時に、各企業が状況に応じて柔軟に対応できるようになったと思います。そもそも、このような決定を行った背景には、IASBが新基準について外部に意見聴取を行ったところ、原則である完全遡及アプローチを実際に適用できる保険契約は、全体の10%に満たないのではないか、という意見があったそうです。このような外部の意見が変更の主な理由となっています。

2点目は、保険契約を集約するレベルについての変更です。新しい保険契約基準は、保険契約ごとに会計処理をおこなうことが前提となっていますが、実務に配慮して、ポートフォリオ単位で会計処理を行うことが認められています。しかし、当初の合意案では、契約の集約の仕方がわかりにくい上に、ポートフォリオの数が膨大になってしまうという懸念が、外部から出てきました。そこで、最終的に、当初の合意案にあった集約の要件を一部削除するなど、簡素化を行うことになりました。

当初の合意案を決定するに至る審議を見ていた私にとっては、最後の最後にこんなに簡単に覆ってしまうものなのか、と思ってしまいますが、決定を下している側からすれば、最初に審議を尽くして全員が肝となる考え方を共有できているから、このような変更に対して議論する余地があまり残っていない、ということなのかもしれません。

会議での合意内容も、基準が公表されるまでは変更される可能性を残していますが、このような直前の変更を見ていると、新基準書を適用する時に肝となる考え方はどこにあるのか、ということがかえって明らかになってくるように思います。

以前、IASBの方が、「IFRSはもっと原則主義であっていいのではないか。各国の違いを考えると、今のIFRSもまだ細かすぎるのかもしれない。」とおっしゃっていたのが、とても印象に残っています。今回紹介した決定事項は基準設定者から見ると、「細かすぎる」ことなのかもしれません。原則主義の会計基準をどのように理解するか、まだまだ今年も追求していきたいと思います。


イージフ 野口



0 件のコメント:

コメントを投稿