2015年10月5日月曜日

IFRS4号「保険契約」改訂で導入される新アプローチ

こんにちは。イージフの野口です。IASBで進められているプロジェクトの中で、保険契約は大きなプロジェクトです。現行基準を根本的に置き換えることを目的としており、実務にも大きな変更が生じることになります。2010年に公開草案、2013年に再公開草案が公表されており、2016年には最終基準書が公表されることが予定されています。

旬刊経理情報で連載しているIASBレポートでは、先日発売された10月10日号で保健契約の審議状況について解説をさせていただきました。いつもの連載で月次のIASB会議の内容を解説していますが、8月は会議自体がお休みなので、毎年このタイミングでは通常の連載では取り上げきれなかった保健契約にしぼって解説をしています。記事では1年分の審議の進み具合についてまとめて紹介しているのですが、保健契約は1年分をまとめてもまだまとめきれない部分もある非常に長いプロジェクトとなっているように感じました。旬刊経理情報本誌で詳しい内容には触れていますので、ここでは雑誌ではまとめきれなかった長い審議全体を眺めてみたいと思います。

現行のIFRS4号「保健契約」は基準書といっても、各国の現行処理を容認し、最低限のことのみを規定しているだけになっています。包括的な統一基準は現在のIFRS4号の改訂作業で初めて達成されることになります。ただし、保健契約プロジェクト当初は米国基準とのコンバージェンスも視野に入れてFASBとの合同で審議を進めようとしていましたが、すでにコンバージェンスは達成困難で現在IASB単独で審議をしています。FASBとIASBでは寄せられる利害関係者の意見が異なり対応しようとする方向性に大きな違いが生じ、合同審議の継続が難しかったようです。今後両者の歩み寄りがあるのか、コンバージェンスへの動きがまた出てくるのかは分からない状態です。米国基準が範疇に入っていないものの、国際的に保険会計の統一基準ができるということは画期的なことだと思います。

新しい保険契約の基準書で目指しているのは、保険負債の公正価値による評価を導入することです。IFRSは時価会計が特徴だ、という言われ方をすることがあります。時価というのは公正価値の一つですし、この特徴が保健契約にも適用されようとしているという理解でいいと思います。ただ、何でも時価(市場での現在の価格)で評価すればいいというわけではありません。何でも時価評価してしまったら、一時的なマーケットでの価格変動で損益が大きく変動してしまいます。そこでどのように時価による評価を導入しつつも適切な損益を計上できるように処理するのか、見積もりによる様々な計算で補正を行うことになります。このような考え方は保険契約だけの話ではなく、退職給付や金融商品の会計処理でも問題になるところです。

新基準では保険負債を保険契約を履行に基づいて現在の価値で測定します。現在導入が決定しているビルディング・ブロック・アプローチでは、保険契約をブロックに分けてそのブロックを積み上げるようにして保険負債を計算します。ブロックは以下の4つになります。

1. 将来のキャッシュ・フロー

2. 貨幣の時間価値

3. リスク調整

4. 契約上のサービス・マージン

保険料の受け取りと保険金の支払いの純額が将来キャッシュ・フローとなり、プラスであれば企業はそこから収益を得られるイメージですが、キャッシュ・フローのプラスが即収益とはなりません。保険契約は長期的な契約ですから貨幣の時間価値を調整しなければならないですし、将来契約に従って企業が保険金を支払うか否かはわからないですので、支払いが生じるリスクを考慮する必要があります。

将来キャッシュ・フローからそのような調整を行った結果が、契約上のサービス・マージンとなり、未稼得の企業収益となります。この収益は時間の経過に基づき償却することになります。現行のIFRS4号とも日本の会計実務とも大きく違う会計処理です。

このアプローチが一般アプローチとして保健契約全般に適用されることになりますが、有配当の保健契約についてはこのアプローチをそのまま適用することに問題があると指摘されていました。有配当契約では確定した剰余金から保険契約者に対して配当を支払うので、保険サービスだけでなく資産運用の代行といった投資関連サービスを提供していると考えられます。ビルディング・ブロック・アプローチをそのまま適用するとその投資関連サービス部分の資産や収益が適切に表示できないのです。

そこでIASBの審議ではビルディング・ブロック・アプローチに関する審議に続いて、有配当契約の会計処理に焦点を当てて審議を行っています。現在もまだ審議は継続していますが、有配当契約に適用するアプローチについては合意に達しています。

直接連動(保険契約者が拠出している資産のリターンと配当が連動している)に分類される有配当契約には変動手数料アプローチを適用します。変動手数料アプローチはビルディング・ブロック・アプローチを一部修正する形で適用されます。基本的な考え方は企業は有配当契約において契約者から預かった資産のリターンから変動手数料を控除した額を契約者に支払うと考えます。この考え方は有配当契約に複雑な会計処理を適用することが回避できるという点で支持されていると思います。

以前は、保険サービスと投資関連サービスという形で保険契約のキャッシュ・フローを分割して会計処理を行うようなアプローチが提案されていました。確かにこのようなアプローチは理論的ですが、実務上は不可能ではないかと批判されてきました。そこで、変動手数料アプローチではキャッシュ・フローを分割しません。また見積もりの変動は手数料の変動として契約上のサービス・マージンの調整として処理します。契約上のサービス・マージンの償却は時の経過に応じて償却します。これまで議論されてきたアプローチと比べると簡素化された会計処理となります。変動手数料アプローチについてはまだいくつかの論点が残っていますので、審議がさらに進んだ段階でまたまとめたいと思います。

今後は有配当契約の審議の後に最終基準書の発効時期等が検討されることになると思います。2016年に最終基準書が公表される見通しであることを考えると、発効は2019年頃になると予想されます。このタイミングも実は大きな問題となっています。その問題については次回ご紹介したいと思います。

イージフ 野口

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