2020年7月3日金曜日

新型コロナの影響、リース会計における免除規定

新型コロナウイルス感染症への対応は各方面で取り組まれてきていますが、IASBでもさまざまな検討がなされてきました。そのなかでも、特に早急な対応を求められていたのが、IFRS16号「リース」の修正です。

IFRS16号では、賃料の減免があった場合、リース契約の条件変更に該当するか否かの判定が必要になります。今回の修正は、新型コロナの影響による賃料の減免についてはこの判定の省略を認めるものです。

通常よりもかなり早く公表された公開草案に対しては、2週間の短い意見募集期間にも関わらず100通以上のコメントが寄せられました。コメントの多くは公開草案の内容を支持するものでしたが、今回の修正で認められる措置の適用期間延長を求める意見が寄せられました。そこで公開草案よりも期間を延長し、2021年6月末までの新型コロナの影響による賃料の減免を対象とすることに変更しました。そこで今回の措置の適用は新型コロナのパンデミックの直接的な結果として生じる賃料減免であり、かつ、以下の3つの要件を満たしたものとなります。

  • リース料の変動により生じる当該リースの改訂後の対価が、実質的に当該変更の直前のリースの対価とほぼ同額であるか、またはそれを下回ること 
  • リース料の減額が、2021年6月30日以前に期限が到来する支払にのみ影響を与えること
  •  当該リースの他の契約条件に実質的な変更がないこと


この修正は5月28日に確定版として公表され、6月1日から適用となりました。ただし、公表から即時に適用することも認められました。

そのほかにリース契約の貸手にも対応が必要とする意見も寄せられていましたが、貸手は借手ほど広範囲に存在しないため、特別な措置の必要性が認められず、貸手に対しては特に対応を検討しないことで合意されています。


野口

2020年6月3日水曜日

IASBが今後の計画を検討、のれんと減損の審議は遅れる可能性

新型コロナウイルスの影響のもと、IASBでは利害関係者をサポートするために何ができるか、という視点で活動を進めてきています。3月以降、毎月日程を追加して会議を開催していますが、4月17日開催の追加会議では、各プロジェクトのスケジュールの見直しが検討されました。

主な合意内容は以下の通りです。

  • IFRS17号「保険契約」、金利指標改革については、計画通りに進める(前月の合意から変更がないことを確認)
  • 公開草案「全般的な表示及び開示」、情報要請「IFRS for SMEs基準の包括的レビュー」、ディスカッション・ペーパー「企業結合-開示、のれん及び減損」の公開文書のコメント募集期間を3ヶ月程度延長する
  • IAS1号「財務諸表の表示」の修正の発効日を2023年1月1日以後開始する事業年度に延期する公開草案を公表する

現在意見募集を行っている公開文書のうち、3つの文書については期間の延長が決定しました。これらは内容が多岐にわたるうえに影響を受ける利害関係者が多く、時間的余裕を確保し、十分な意見収集を行うべきという考えのもと決定されています。このことにより、コメントに対するフィードバックなど次のステップも遅れることになると思います。

また、IAS1号の修正については、対応に第三者の関与も必要であり、新型コロナウイルスの影響で準備に支障をきたす可能性があるため、適用延期への強い要請があったようです。

IAS 37号「引当金、偶発債務及び偶発資産」の修正(「不利な契約-契約履行のコスト」)についても発効日を延期すべきではないかという意見が出ていましたが、IAS 37号の修正は第三者の関与があまり重要ではなく、対応にそこまで負荷がかからないという見解が支持され、これまでの予定通り適用を行うことが確認されています。

今後公開が予定されている文書のスケジュールについても変更が検討されています。最新の情報は随時IFRS財団のウェブサイトに公表されることになっています。

特に、のれんと減損についてはディスカッション・ペーパーに対しては、どのような意見が寄せられるのか注目されているところでもありました。文書の公開期間が2020年12月末まで延長されることにより、審議の再開も遅くなることなりますが、十分な審議を尽くすためには必要な措置だと思います。


野口


2020年5月7日木曜日

新型コロナウイルス、IFRSへの影響と対応

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大はIFRSにも影響を与えています。今回はその状況についてまとめたいと思います。

IFRS財団は2020年3月から次の対応をとっています。

プロジェクトの計画見直し

緊急性を有する、金利指標改革とIFRS 17号「保険契約」の2つのプロジェクトは当初の計画通りに進める一方で、まず他の文書公開スケジュールを変更しました。

2020年3月と4月に公表を予定していた、いくつかの基準書の狭い範囲の修正については公表時期を5月に延期しています。IASB内での作業や利害関係者側の意見形成等に時間的余裕を持たせ、効率的に進める意図です。5月に公表される予定のIFRSの狭い範囲の修正は次のものがあります。

・金融負債の認識の中止に関する「10%テスト」(IFRS9号「金融商品」)
・リース・インセンティブ(IFRS 16号「リース」設例13)
・不利な契約-契約履行のコスト(IAS 37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」)
・有形固定資産:意図した使用の前の収入(IAS 16号「有形固定資産」)
・初度適用企業としての子会社(IFRS1号「国際財務報告基準の初度適用」)
・公正価値測定における課税に関するキャッシュ・フローの取扱い(IAS 41号「農業」)
・「概念フレームワーク」への参照(IFRS3号「企業結合」)

その他文書の公表以外のフェーズでのプロジェクトの進行も見直しています(追加日程でIASB会議を開催し検討していますので、また別の機会にご紹介します)。

定期会議の開催や関連情報の公開等コミュニケーションを維持

定期開催される会議については随時ウェブ会議に切り替えており、IASB会議も3月からウェブでの開催になっています。公開されている会議のビデオや資料等は以前と同様にIFRS財団のウェブサイトで公開され、会議の開催について変更があった場合も随時ウェブサイトで公表されることになっています。これは以前からと変わらない対応となっています。

ロンドンのIFRS財団事務所は2020年3月16日より閉鎖し、理事およびスタッフは在宅勤務になりましたが、電話やメールによるコンタクトは通常通り可能となっています。

新型コロナウィルスの影響下でのIFRS適用に関する教育マテリアルの公表

またIFRS財団では、新型コロナウィルスにより増大している不確実性下でのIFRS適用に関する教育マテリアルの公表も行なっています。3月にはIFRS9号「金融商品」、4月にはIFRS16号「リース」の適用をサポートする教育マテリアルを公表しました。それぞれの内容の要約を紹介したいと思います。

IFRS9号について
IFRS9号は予想信用損失モデルを採用しており、過去の事象だけでなく現在の状況と将来の予測に関する合理的な情報に基づいた見積りを要求しています。また、IFRS9号は具体的な閾値や機械的な評価方法等を定めてはいません。企業が採用する評価方法や判断は状況に応じて変わることが想定されています。

将来の予測を行うには、コロナウイルスの影響と重要な国の政策等を考慮する必要がありますが、不確実性が高く予測は非常に困難になっています。しかし、企業が合理的な情報に基づき状況に応じた判断を行えば、予想信用損失モデルは有用な情報を提供することが可能であり、財務諸表利用者に透明性のある情報提供が可能です。

IFRS財団は多くの規制当局その他の機関とIFRS9号の適用について密接に協議を行なっています。すでにいくつかの規制当局(欧州銀行監督局、欧州中央銀行等)は独自にガイダンスを公表しています。IFRS財団は、企業がそれらのガイダンスの利用を推奨します。

IFRS16号について
広範囲のリース契約がコロナウイルスのパンデミックの影響を受けることが予想されています。コロナウイルスのパンデミックへの政府の対応により、リース契約が直接的にまたは間接的に変更される可能性がありますが、IFRS16号では、いずれの場合も事後的な変更として対応が必要になります。

IFRS16号は、事後的な変更がリース条件の変更に該当するか否かによって異なる会計処理を規定しています。たとえば、政府の介入(たとえば店舗の休業命令等)という当初の契約では想定されなかった事象であっても、そのことによってリース料が変動した場合、このようなケースはリース条件の変更には該当しないと考えられ、通常変動リース料として処理されます。

また、借手の利用権資産や貸手がオペレーティング・リースを行なっている固定資産にIAS36号「資産の減損」を適用するときも、コロナウイルスの影響を含めて考慮する必要があります。たとえば、リース料が減額される期間のリース使用権から生じる収益の減少は減損の兆候にあたる可能性があります。貸手は、IFRS9号「金融商品」が要求するリース債権の減損の要否を検討することになります。

開示について、IFRS16号では、貸手と借手の双方にリースが企業の財政状態等与える影響を評価する基礎となる情報の開示が要求されています。コロナウイルスによる影響を理解するために、十分な情報を開示する必要があります。

経済状況が不安定になると、会計基準さえも安定的に適用することが困難に思われる場面があります。リーマンショックの時もIFRSは不安定な状況に陥ったことがありますが、その時の教訓を生かし、慎重な対応を取ろうという姿勢が感じられます。


野口


2020年4月6日月曜日

IFRS17号「保険契約」の修正、重要なポイントは?

保険契約は非常に長い年月をかけて基準を整備してきましたが、ついに最終的な基準として確定しようとしています。

最終基準書としてのIFRS17号「保険契約」は2017年5月に公表されていましたが、その後対応を進める企業を中心に適用上の問題が指摘されていました。重要な問題も含まれており、このまま基準として発効すべきか、ぎりぎりの検討がなされていましたが、IFRS17号を修正する決定が下されました。しかし、すでに取り組みを進めている企業の手戻りとならず、追加負担とならない範囲での対応を行う方針が取られました。さらに基準書の根本となる考え方を変更しないことも条件として、範囲を予め限定した検討が行われることとなりました。

2019年6月に修正の公開草案が公表され、そのフィードバックをもとにその後の審議が進められていますが、再検討は以下の4つの分野を中心に行われることとなりました。

・予想される保険獲得キャッシュ・フローの配分
・不利な契約に関する再保険契約
・クレジットカードに対するIFRS17号適用除外
・期中財務諸表

細かい話も多いのですが、ここでは重要な修正ポイントとして、収益の認識パターンについて新しい考え方が示された論点を2つ紹介したいと思います。

1つ目は保険契約に投資サービスが含まれるときに生じる問題です。IFRS17号では、保険契約に基づいて提供される給付の量と予想されるカバー期間に基づいた単位に損益を配分し収益を認識するという考え方が採用されています。最初の公開草案では、収益認識において考慮されるカバー期間は保険カバー期間のみとされていたため、投資サービスが含まれている保険契約の場合、契約に基づいて提供されるサービスのすべてが収益認識に反映されないという問題が指摘されていました。

この問題に対処するため、IASBではIFRS17号修正の公開草案で、収益認識を保険カバーと投資サービスの両方の提供を反映する提案を行いました。修正案では、直接連動有配当契約はすべて投資関連サービスを含んでいることになるため、カバー期間には保険サービスと投資関連サービスの提供の両方に基づいて決定することとしています。

直接連動有配当契約以外の全ての保険契約については、以下の2つの要件の両方を満たす投資リターン・サービスが存在する場合が該当することになります。

・投資要素があるか、または保険契約者がある金額を引き出す権利を有している
・投資要素(または保険契約者が引き出す権利を有している金額)に保険者の投資活動で生成される投資リターンが含まれると見込まれている

なお、公開草案では投資リターンを「正の投資リターン」と表現していましたが、投資リターンは正になる場合も負になる場合も考えられるため、「正の」という言葉は削除されることで合意されています。

また、企業が投資活動を保険契約者に関する保険カバーからの給付を拡充するために行っている範囲で、投資活動に関連するコストを保険契約の境界線内のキャッシュ・フローとして含めることも追加されています。このことにより、保険契約に投資リターン・サービスが存在しないと企業が判断している場合も対応が必要となります。

2つ目は、不利な契約に関する修正です。IFRS17号では、不利な契約を発行している場合に損失を純損益で認識することを要求しています。しかし、その損失が保有している再保険契約でカバーされている場合、その損失に対応する再保険契約の利得が同時に純損益に認識されることがないため、会計上のミスマッチが生じる可能性が指摘されていました。

修正の公開草案では、この会計上のミスマッチについて、再保険グループが「比例的」に不利な契約をカバーしている場合にのみ、契約上のサービス・マージンを修正する提案を行っていました。

修正案に対しては、「比例的」である再保険契約に限定されているため適用範囲が狭すぎるという批判が多く、最終的に2020年2月の審議では適用範囲を広げる合意がなされました。

企業が基礎となる不利な保険契約の当初認識時または不利な契約の追加時に損失を認識する場合、保有している再保険契約の契約上のサービス・マージンを修正し、その結果として収益を認識することとなりました。保有している再保険契約から回収される損失の金額は、基礎となる保険契約について認識する損失と当該契約にかかる保険金のうち保有している再保険契約から回収すると企業が見込んでいる比率によって計算するものとされています。

2020年2月のIASB会議をもって実質的な検討は終わりました。次の3月の会議では発効日を2023年1月1日以後開始する事業年度まで延期することが決定しています。今回検討されてきた修正は2020年第2四半期に公表される予定です。長い審議期間を経てついにIFRS17号が基準書として確定することとなります。


野口由美子



2020年3月4日水曜日

IASBが今目指している開示のあり方とは

最近のIASBで最も重視されているのは、もっぱら開示、だと思います。投資家が必要とする情報が十分に開示されていないこと、不必要な情報が多いために内容が理解しにくくなっていること、というのが基本的な問題意識で、非効率なコミュニケーションが行われている現状を改善する取り組みを行っています。

開示については、主に基本財務諸表プロジェクトが本丸となって動いていますが、開示イニシアティブでは、そのような財務諸表という枠組みだけを対象とするのではなく、大きな視点で改善を進めよとしています。
開示イニシアティブは複数のサブブロジェクトに分けて取り組まれています。現在進行しているのは、

  • 会計方針
  • SMEである子会社
  • 的を絞った基準レベルの開示のレビュー

の3つです。今回は的を絞った基準レベルの開示のレビューの審議をご紹介したいと思います。

このプロジェクトでは、当初、企業が投資家にとって有用な情報を識別するための開示の原則を設定することを目指していましたが、ディスカッション・ペーパーに対する反対意見があまりにも多かったため、IASB自身が開示規定を開発する際に参照するガイダンスを作成することに方針が転換されています。

審議では、IFRSの個別基準を取り上げ、具体的な開示規定の検討を通してガイダンスを開発する試みを行っていて、検討対象にはIAS19号「従業員給付」とIFRS13号「公正価値測定」の2つの基準が選ばれています。検討の進め方は少し面白い試みとなっていて、

  • ハイレベルの包括的な開示の目的を最初に設定
  • ハイレベルな目的から具体的な開示目的を設定
  • 具体的な目的を達成するために必要な開示項目を導出

という手順で識別された開示項目と現行基準の開示項目を比較し、議論を進めます。

2020年1月のIASB会議では、IAS19号の開示規定について、審議されました。ここではIASBが目指そうとしている開示の一端が垣間見られたように思います。ちょっと内容は細かいのですが、ご紹介したいと思います。

まず、ハイレベルの、多様な状況に対応できる開示目的とは、全体として必要とされている情報が開示されているかを考慮するためのものとされています。IAS19号の検討では、確定給付制度や確定拠出制度等それぞれの制度についてハイレベルの開示目的がされました。

たとえば、確定給付制度の場合、ハイレベルの開示目的は、企業に次のことを要求します。

  • 財務諸表利用者が確定給付制度に付随するリスクと不確実性を評価し、財務諸表に与える影響を評価することに役立つ情報を開示する
  • 具体的な開示目的を満たす情報が重要でない大きな金額のなかに含まれることや、異なる特徴や性質を有する項目に集約されることがないように、情報の集約および区分を行う

内容自体は、現行のIAS19号の開示の目的と似たものですが、審議では、現行基準では別個のリスクを有する制度または制度グループを区別するための例として挙げられている項目を、情報の集約と区分において考慮すべき相違の例として開示全体に適用する形で追加することが合意されました。具体的な内容は次のとおりとなっています。

  • 構成員の相違
  • 地域の相違
  • 特徴の相違(定額給与年金制度、最終給与年金制度、退職後医療制度等)
  • 規制環境の相違
  • 報告セグメントの相違
  • 積立ての取り決めの相違(未積立、全部積立、一部積立等)

この審議の興味深かったところは、このような説明を挿入することは、チェックリストアプローチと批判されている従来の開示スタイルからの転換を意味するもので、そのことを明確なメッセージとして伝えるべき、という指摘があったことです。基準の開示規定にある内容を全て網羅的に開示するのではなく、従来よりも情報量が減ったとしても重要な情報が開示されるよう財務諸表作成者である企業の理解を促すことの重要性が強調されていました。

次に、具体的な開示目的は、なぜその情報が財務諸表利用者にとって有用であるかを説明するものです。ハイレベルの開示目的から導き出されるものであり、たとえば、確定給付制度におけるハイレベルの開示目的から、財務諸表上の金額や制度の特徴とリスク等、6つの領域の具体的な開示目的が設定されています。

それぞれの開示目的に合致するとIASBが判断した開示項目と現行のIAS19号における開示項目を比較した結果、多くの項目は既存の開示項目と重複していたのですが一部の既存の開示項目は今回の提示した開示項目には含まれていないことが明らかとなりました。大きな差異として指摘があったのは以下の内容です。

・確定給付制度の性質およびリスクに関して
    1. 制度改訂、縮小および清算の記述
    2. 制度資産として保有されている企業自身の移転可能な金融商品の公正価値および企業が占有している不動産または使用している他の資産である制度資産の公正価値の開示

・確定給付負債または資産の純額の変動の発生要因に関して
    1. 確定給付負債または資産の純額の変動の主要な決定要因の表形式での調整表の開示
    2. 補填の権利にかかる変動の決定要因の記述


これらの項目は、開示目的を満たすための企業が提供することができるが開示を強制しない項目として扱うことで合意されています。個々の内容は細かい話になってしまいましたが、「あれもこれも開示してほしい」と要請されているかのように見えたIFRSの開示規定が、「こういうことやああいうことを開示したらいいかもしれません」というようなトーンに変わってきているようにも感じられます。

判断の余地が大きくなったことによる企業の負担増も懸念され、開示の要否の判断を企業に求める項目について、どのような判断を適用するかを説明するためのガイダンスを基準に追加することも決定しています。

企業に対しては、どのような方法で開示目的を満たしたのか説明することを求めることとなっていていることもあり、企業に対してどのようなガイダンスを提供できるかによって、この新しい開示のアプローチが機能するか成否がかかっているのではないかと思います。


野口由美子

2020年2月5日水曜日

2020年IFRSはどう変わるか

2020年はIFRSの動きが活発な年になりそうです。すでに多くの公表文書の公開が予定され、大きなプロジェクトで意見募集が行われます。IASBが公表しているスケジュールは以下のようになっています。


IFRSの修正
1月     負債の分類(IAS1号「財務諸表の表示」)
3月     IAS16号「有形固定資産」
第2四半期 IFRS17号「保険契約」
第2四半期 IFRS9号「金融商品」(金融負債の認識中止に係る10%テスト)
第2四半期 IFRS16号「リース」設例13(リースインセンティブ)
第2四半期 IFRS 37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」(不利な契約)
第2四半期 IFRS1号「国際財務報告基準の初度適用」(子会社の初度適用)
第2四半期 IAS41号「農業」(公正価値評価における課税)
第2四半期 IFRS3号「企業結合」(概念フレームワークとのレファレンス)

ディスカッション・ペーパー(DP)
2月    のれんと減損
第2四半期 共通支配下の企業結合

公開草案
第2四半期 IBOR改革と財務報告への影響(フェーズ2)
第2四半期 料金規制事業
後半    開示イニシアティブ(対象となる基準レベルの開示のレビュー)
後半    経営者による説明

意見の募集
第1四半期 中小企業向けIFRSの包括的レビュー
第2四半期 適用後レビュー
       ・IFRS10号「連結財務諸表」
       ・IFRS11号「共同支配の取決め」
             ・IFRS12号「他の事業体への関与の開示」
後半    2020年アジェンダ・コンサルテーション

これらの予定の中で重要なプロジェクトは開示関連です。

開示に関するプロジェクトでは、すでに2019年末の公開となった基本財務諸表プロジェクトの公開草案「全般的な表示及び開示」に対するコメントも募集が始まっています。この公開草案は、損益計算書を中心に財務諸表の表示方法を大きく変える内容となっています。

開示イニシアティブでは、財務諸表の開示がより効果的に行われることを目的として、IASB自身が開示規定を開発する際に参照するガイダンスの作成が行われているのですが、現在はIAS19号「従業員給付」とIFRS13号「公正価値評価」にガイダンス案を適用し、テストを行っています。2020年には両基準書のレビュー結果を反映する改訂も進められることとなっています。

経営者による説明では、公開草案の公表が予定されている。公開草案では、近年進展を見せているIFRS以外の枠組みにおける企業の情報開示の現状とIASBが目指している開示の目的との間には隔たりがあるという認識のもとに、どのように改善することができるか、IASBとしての考え方が盛り込まれることになりそうです。

開示関連以外では、のれんと減損が注目されています。2020年公表予定のDPでは、のれんを償却せず減損テストを維持し、一部減損テストの手続きの簡素化する等の提案が行われます。議論の行方が注目されていたのれんの償却処理については、僅差で否決されたことを受け、DPでは償却を行わない提案をするとともに賛成反対の両論が併記されることとなっています。

2020年はこれらのプロジェクトの議論がさらに活発になると思います。全ての企業にも影響のある大きな問題も含まれているので、今後も情報を追っていきたいと思います。


野口由美子

2020年1月8日水曜日

IFRSのアニュアルレポートはどう変わるか

現在、IASBでは、財務報告におけるコミュニケーションの改善が優先的に取り組まれています。IFRSの開示というと、ボリュームが多く、特に注記が膨大になるイメージがあります。しかし、現状の開示は決して良いものだとは考えられていません。必要な情報の開示がされていない部分や、大量の情報の中に必要な情報が埋もれてわかりにくくなっている部分があるという批判は以前からなされてきました。

確かに、昔は財務諸表本表はシンプルであることが望ましく、財務諸表の理解に必要な情報は注記で個別に説明すべきという考え方が主流だったのかもしれません。しかし、IFRSの開発が進み、複雑化する個別基準とシンプルなままの財務諸表の表示はそぐわなくなってきたのではないでしょうか。コミュニケーションの改善では、財務諸表本体だけでなく、開示全体を見直す検討を進めています。

開示の改善を目指すプロジェクトは複数展開されています。大きなプロジェクトは3つあり、これらのプロジェクトでアニュアルレポート全体をカバーしています。

  • 基本財務諸表 (検討領域:財務諸表本体)
  • 開示に関する取組み (検討領域:注記)
  • 経営者による説明 (検討領域:財務諸表外)

それぞれのプロジェクトでは、個別基準の開示規定を直接修正することよりも、適切な水準での開示を実現するための原則やガイダンスの開発に重点が置く形で進められています。

基本財務諸表プロジェクトでは、主に損益計算書に焦点を当て、新たに営業利益や通例でない項目の導入を目指しています。営業利益や通例でない特別損益といった項目は日本基準では馴染みのある項目ですが、IASBでは、定義があやふやなまま使用されている不適切な項目と考えられてきた傾向があり、あまり重視されることはありませんでした。そのような項目を含めた今回の改訂は非常に注目されているところです。2019年12月に「一般的な表示及び開示」というタイトルで公開草案が公表されました。

そして、開示に関する取組みでは、財務諸表作成者に対してではなく、IASBが開示に関する規定を検討するときに参照するガイダンスの作成を進めています。現在は個別の基準書を取り上げて検討を進めていますが、個別基準にバラバラに規定されていた開示項目が一定の基準のもと整理されようとしています。


また、経営者による説明では、実務記述書「経営者による説明」の改訂を進めています。実務記述書は、拘束力がなく、IFRSには含まれませんが、財務諸表に示される情報を捕捉し補完する情報提供のためのフレームワークと位置付けられています。最近では気候変動等の問題に対する企業の社会的責任を問う声は強く、そのような責任を果たすためにも、従来の財務報告よりも広い意味で、企業のコミュニケーションが重視されるようになってきています。IASBとしても、実務記述書の見直しを通じて、企業のコミュニケーションのあり方を広く問い直す狙いもあるようです。

IASBの活動領域は会計「処理」の問題だけでなく、「報告」の問題へ軸足が大きく動いているのを感じます。日本では一歩間違えると「報告」が形式的なものになってしまう傾向があるように思います。どのようなコミュニケーションが必要とされているのか、IFRSの動向からも考えさせられることは多いです。


野口由美子