2018年8月6日月曜日

IFRS、米国会計基準との関係は? 差異は解消されるのか

かつては共同でコンバージェンス・プロジェクトを立ち上げて、IFRSと米国会計基準との差異を解消し、単一の会計基準に収斂するというゴールを掲げていたIASBとFASBですが、2010年にSECがIFRSの米国企業への適用について評価を必要とする声明が発表されてから「単一の会計基準」という目標からはどんどん遠ざかっているという印象があります。

SECでは米国企業への適用にはまださまざまな問題が残っているという見解が示され、IFRSの適用は見送られました。現状では、外国登録企業に対してIFRSの適用が認められているだけです。

それでも、米国は米国投資家にとっても利益となるように、依然として単一なグローバルな基準に関与を続ける、という姿勢は保たれています。

その取り組みのひとつとして、近年は年1回ペースでFASBがIASBと合同で会議を開いています。コンバージェンス・プロジェクトを進めていた時は頻繁に合同会議が開かれ、意思決定が行われていましたが、現在は合同会議で意思決定が行われることはなく、教育セッションと位置付けられています。お互いが最近進めているプロジェクトの動向や問題に対する意見交換を行う場となっています。

コンバージェンス・プロジェクト後、両基準の差異を広げるような改訂もそれぞれ行っている状況なのですが、両審議会が一同に会しても、両基準の差異が維持または解消することを目的に審議会間の意見を調整するようなこともなく、あまり成果を求められない会議になっているかもしれません。

2018年の合同会議は6月に開催されましたが、特にのれんの取り扱いに関しては両審議会の「距離感」がよく伝わってくる意見交換が行われていました。非常に興味深かったので紹介したいと思います。

のれんを話し合うセッションでは、FASB議長が最初に、問題の核心を指摘しました。核心とはつまり、のれんの減損テストと償却処理を比較し、減損テストは償却よりも有用な情報提供になると支持されているものの、減損テストには多大なコストがかかることになり、費用と便益のバランスが絶えず重要な問題になる、ということです。そして、のれんが何であるか特定できない以上、有効な解決策は見つけることはできないという認識でした。

この認識は両審議会で共通なのですが、その対処法はそれぞれ大きく異なっています。

FASBでは、IASBに先行してのれんの取り扱いについて見直しを進めていましたが、2017年1月にFASB-ASU2017-04号「のれんの減損テストの簡略化」を公表し、基準を改訂しています。この改訂により、減損テストの2ステップを単一ステップとなりました。

米国基準ではのれんの減損テストでは潜在的な減損を識別した後に減損を測定していたのですが、改訂により、レポーティング・ユニットの帳簿価額と公正価値を比較して減損損失を測定することとなっています。これは、手続きの複雑性を低減するための改訂とされています(IFRSではもともと単一ステップにより減損を認識しているため、差異が縮小されることにもなります)。

さらにFASBは、非公開企業に対してのれんの償却処理を認める改訂を行ったことが紹介され、今後さらに適用範囲を広げるべきか検討予定であることが伝えられていました。

それに対してIASBは、ヘッドルーム・アプローチの導入を検討する等、減損テストの有効性向上に重点を置く検討を続けています。減損テストの手続きを簡素化する改訂も行う予定ですが、限定的な内容になっており、FASBのように簡素化をさらに進めようとする姿勢はあまりありません。

この対応の違いは、問題に対する危機感の差だと思います。今年に入って、英ゼネコン大手カリリオン社が経営破綻した際に総資産の30%以上がのれん残高であったことが問題となり、IFRSののれんの減損テストに対して、改めて批判が挙がっています。IASBは、巨額ののれん残高が財務諸表上に存在し続けること自体に疑念を抱かざるを得ない状況です。一方で、そのような批判を受けていない、国内経済も好調なFASBは同じレベルでの危機感を持っていませんでした。

現状では、善後策としての対応に大きな違いがあるわけですが、大きな経済環境の変化がない限り、現在の情勢が変化することはあまり考えられないと思います。IFRSと米国会計基準、今後さらに差異が広がっていく可能性は大きいと思います。

そのような「国際的な潮流」を踏まえて、日本基準の今後を考えると、結局「動くに動けない」状態がまだ続いてしまいそうにも思えてきますが、のれんの問題はどの会計基準においても難しい問題となっています。


イージフ  野口

2018年7月2日月曜日

IFRS: のれんの減損、ヘッドルーム・アプローチは不支持?

IFRSののれんの会計処理が大きく変わろうとしています。それも、今までの決定とは違う方向に変わっていく可能性が高くなってきました。

IASBではこれまで、のれんの減損テストをどのように改善できるのかという観点からの検討を続けていました。さまざまな案(のれんの償却を復活させる、という案もありました)の中から、ヘッドルーム・アプローチという新しい手続きを開発し、のれんの減損の認識が「少なすぎる、遅すぎる」という批判への解決策を示そうとしていました。

ヘッドルーム・アプローチでは、財務諸表上認識されない自己創設のれんなどの存在が減損損失を覆い隠す「ヘッドルーム」になっているという考えのもと、その「ヘッドルーム」の影響を排除することで、のれんの減損損失をより早く認識しようというものです。

審議では、効果は限定的かもしれないが、手続きを煩雑にしすぎることもなく、減損損失をより適切に認識できるのではないか、と支持され、正式な提案を行い意見募集を行うことで合意されていました。

その決定が2017年12月の会議でありましたが、2018年5月の審議ではこの合意が取り下げられることとなりました。

この時の会議では、冒頭から議長自らヘッドルーム・アプローチそのものへの疑問を呈し、議論の口火を切りました。

現行のIAS36号「資産の減損」ののれんの減損テストは十分に機能しておらず、しかも負担の重い手続きとなっていると言われています。しかし、ヘッドルーム・アプローチもこの問題を根本的には解決できているとはいえず、利害関係者からの支持を得ることは困難、というのが議長の意見でした。

経済環境の大きな変化がより問題を困難にしています。IFRS3号が作られてから20年近く経っていますが、時が経つにつれて企業買収がより活発かつ大型化しており、のれんの金額も過去より増して巨額になっています。巨額ののれんが保有され続けた状態で企業の大型倒産が起きた場合、IASBへの信頼は傷つくことになるという危機感が示されました。

このような話が会議で出た背景には、ASAF(会計基準アドバイサリーフォーラム)などでヘッドルーム・アプローチへの支持があまり得られなかったことがあると思います。

ASAFに参加している会計基準設定団体すべてがヘッドルーム・アプローチに反対でした。
主な反対理由は以下であったそうです。

  • このアプローチを採用した際の結果を理解し説明するのは難しい
  • 回収可能価額の把握はコストがかかる
  • 減損の兆候に基づいて減損を認識するというIAS36号「資産の減損」の基本的な考え方を変更することになる
  • 回収可能価額の減少のすべてを獲得したのれんに結びつけるのは理論的ではない

特にコスト面に問題があるという見解を示す団体が多く、代替案としては減損テストの手続きそのものよりも、のれんに関する情報開示の充実を図るべきとする意見が多かったようです。

このような意見に対し、IASBは、情報開示だけの対応では不十分、とIASB会議の場ではっきり回答しています。そのような対応では投資家を納得させることができない、と考えているようです。

では、どうしたらいいのか。

5月のIASB会議でも、さまざまな意見が交わされましたが、これまでの審議と同様に決定的な解決策は見出されませんでした。ただし、ヘッドルーム・アプローチのみを提案し意見収集を行わないと決定しています。今後は、再度代替案を検討し、他の案を併記する形での提案を行うことになりそうです。

ヘッドルーム・アプローチが既定路線として提案がなされると思っていましたが、ここで一旦ストップがかかりました。伝統的にのれんに対しては異なる見方がありますし、その取り扱いは非常にデリケートな問題となっています。解決は簡単ではありません。今回の決定があっても、ヘッドルーム・アプローチは有力な案のひとつとして扱われることになると思いますが、今後の検討にも注目したいところです。


イージフ  野口

2018年6月4日月曜日

企業結合、のれんと識別可能な無形資産の問題

こんにちは。イージフ の野口です。現在IASBが取り組んでいるのれんと減損のプロジェクトでは、のれんの算定から事後的な手続き、減損損失の認識に至るまで、さまざまな観点から現行基準の再検討が行われてきました。のれんの償却の要否、減損手続き自体の見直しも含めて根本からの問い直す姿勢で取り組まれてきたように思います。

財務諸表作成者である企業からみると企業結合時ののれんの算定、のれんの減損テストなど、のれんにまつわる規定は煩雑であるという声が根強くあります。一方、投資家を中心とする財務諸表作成者から見ると、突然巨額の減損損失が認識され企業の業績が一気に悪化するという場面に直面することが少なくなく、もっと早期に適切な額の減損損失が認識できたのではないかという、疑問が絶えません。

この両者からの相反する要望に応えるため、どのようにバランスをとるのか、ということが試されていたように思います。審議全体からは、現状では、減損という制度自体を維持するのが一番妥当であり、手続きも簡素化よりも有効性を重視した方向での改訂になったと言う印象です。

のれんの減損テストに関しては、

減損テストにヘッドルーム・アプローチを導入する

という大きな手続きの変更がなされることになりましたが、そのほかの変更は小さなものに限られ、手続きの簡素化につながる主な改訂は以下の2点のみです。

  • 使用価値の計算から、将来のリストラクチャリングまたは将来の拡張から発生すると見込まれるキャッシュ・フローを除外するという制約の削除
  • 使用価値を計算する際に税引き前のインプットを使用するという要求の削除
のれんの償却や減損テストのタイミングなどについて変更をしないことになりました。

ここでは、のれんの範囲についてIASB会議での議論を紹介したいと思います(主に2018年4月のIASB会議の内容になります)。

のれんの範囲については、現行基準では、企業結合時に識別可能な無形資産を認識することが要求されていますが、無形資産の識別にはコストがかかるという企業からの意見がありました。そこで審議では、耐用年数を確定できない無形資産をのれんの金額に含めることが提案されていました。

この提案にはさまざまな意見が交わされたのですがが、従来通り、識別可能な無形資産をのれんから分離して認識すべきという意見が強く、無形資産をのれんに含める検討は今後継続しないことが決定しました。

提案に対しては、耐用年数を確定できない無形資産に対象を限定しているため大きな影響が生じないという見方もありました。企業からの要望を鑑みて、コスト軽減効果を重視する賛成意見もあったわけですが、全体としては否定的な意見の方が多数でした。のれんに他の無形資産も含まれ、のれんの中身が「ブラックボックス」となることで、減損テストの有効性に疑念を生じるといった、問題点が指摘されました。

この審議をもって主要な事項の審議が終わりました。のれんと減損に関しては、検討範囲は広かったものの、改訂につながった提案は少ない結果になったと思います。今回の改訂の目玉は、新アプローチであるヘッドルーム・アプローチです。改訂する内容が少ないこともあり、IASBでは次のステップとしてディスカッション・ペーパーを省略し、公開草案の公表を念頭に置いて審議を継続しています(公開草案を作成するという最終的な決定はまだありません)。

今後はヘッドルーム・アプローチがどのように規定されるのか、フォローしておくことが重要になると思います。


イージフ  野口

2018年5月7日月曜日

IFRSの開示原則、プロジェクト変更の意味

こんにちは。イージフの野口です。IFRSは、IAS (International Accounting Standards)という「会計」基準を冠した名称をあえて変更し、IFRS (International Financial Reporting Standards)、財務「報告」基準であることを明確にしてきたという経緯があります。

「報告」基準であるがゆえに、情報提供をいかに行うかという開示の問題にも重点を置いています。しかし、これまでは会計処理の部分の基準作りが優先され、開示への取り組みはあまりされていませんでした。金融商品や収益認識、リースといった主要な会計基準の設定が終わった今だからこそ、本来もっとも重視されるべき開示についての取り組みが始まったといえます。

では、開示に関する取り組みはどのように進められるのか。個別基準にある開示規定の見直しを行うのか、それとも開示に関する一般的な原則を設定するか。IASBの方針は開示に関する原則を設定することでした。原則主義というIFRSの性質上、それはあまり特別なことではなく、驚くことではなかったと思います。2017年3月には開示原則に関するDP(ディスカッション・ペーパー)も公表されました。

しかし、2018年3月にこの開示原則に関する方針を転換する決定がありました。

DPに対しては、プロジェクト自体、焦点が定まっておらず、どのように開示に関する問題に取り組むのかIASBの姿勢が明確でないという批判が寄せられました。IASBでは、そのフィードバックを重く受け止め、プロジェクトの方針を転換させた開示に関する原則を打ち立てるよりも、審議会が開示の基準を設定するときに参照するガイダンスを作成することが必要だという認識になりました。

また、ガイダンスを作成するだけでなく、1つもしくは2つの個別基準を対象に新しいガイダンスに基づくレビューを行い、必要に応じて当該基準の修正を行うことも合意されました。

この決定とともに、当初の計画からプロジェクトの範囲も見直され、以下の問題を扱うことで合意されました。プロジェクトの範囲は他のプロジェクトとの重複を避け、かなり絞られた印象です。

テクノロジーの影響
重要性
情報の記載場所
どの会計方針を開示すべきか

DPのフィードバックから、デジタルによる情報伝達等、テクノロジーが財務情報の伝達に与えている影響を検討すべきという指摘があり、新たな検討課題として追加されています。テクノロジーは、これまでIASBでほとんど扱われてこなかった領域ですので、今後どのような分析結果が報告されるのか興味深いところです。

また、重要性も検討課題として追加されることになりました。しかし、検討の着手は遅くなりそうです。

重要性はすでに他のプロジェクトでも取り上げられていて、「開示に関する取り組み:「重要性がある」の定義」(IAS1号およびIAS8号の修正)プロジェクトの進捗、すでに公表済みの実務記述書2号「重要性の判断行使」及び「財務諸表におけるコミュニケーションの改善: 開示の意味を高める」の実務上の影響に関しての情報収集を行ったうえで、検討されることとなっています。

開示原則について、当初のプロジェクトから方針転換されることになりましたが、個別基準書の開示規定の改訂まで関与することが明らかにされ、より実効性のある(財務諸表作成者にも影響がある、ということでもあります)プロジェクトとして進められていくことになると思います。


イージフ  野口

2018年4月10日火曜日

IFRSのマクロヘッジ、新会計モデルの全体像

こんにちは。イージフの野口です。IFRSのマクロヘッジは長く後回しにされてきた分野です。ポートフォリオ単位(ポートフォリオ内の個々の金融商品は入れ替わることが前提となっているので、特に最近は「動的リスク管理」という言葉が使われています)でのリスク管理活動を対象とするので、特殊で複雑な問題として、他のプロジェクトが優先されてきたという経緯があります。

ようやく、2014年にディスカッション・ペーパーが公表され、そこでは、今までにない全く新しい会計モデルが提案されました。しかし、利害関係者から要求を十分に反映できていないという判断のもと、この提案は取り下げられ、白紙の状態から再検討が行われていました。再検討では長期にわたる教育セッションにより進められ、プロジェクトの目的から検討し直すという慎重なものでした。

最近のIASBの審議で、ようやく新しい会計モデルの考え方がまとまってきました。現在支持されている新アプローチは、簡単に言うと以下の2点がポイントとなります。

・金利リスクに対する動的リスク管理が対象
・キャッシュ・フロー・ヘッジが基礎

そもそも、マクロヘッジは、投資家から広範な範囲での企業のリスク管理活動についての情報提供が望まれ、一方、財務諸表作成者から会計上のミスマッチの解消を求める声が強く、意見の食い違いが大きい問題でした。利害関係者からの異なる意見が集約できなかったことが問題だったという認識から、新しい会計モデルでは会計上のミスマッチを解消することを優先し、さらに要望が多い金利リスクに絞った対応を行うことで実現可能な形に目的を再設定しました。

さらに、かつての審議では完全に新しいアプローチの開発を目指していましたが、今回改めて提案される予定の会計モデルは、キャッシュ・フロー・ヘッジという、すでにIFRSの一般的な個別ヘッジにある会計モデルを基礎とします。実際に金融機関で行われている金利リスク管理活動はキャッシュ・フローに着目して行われていることが多いという報告があり、実態に即していると考えられる上に、理解しやすいという利点が挙げられています。

新会計モデルでは動的リスク管理を対象とするため、個別ヘッジのキャッシュ・フロー・ヘッジとは異なる以下の用語を使いますが、それぞれIFRS9号に対応している概念です。

・資産プロファイル(IFRS9号のヘッジ対象に対応)
・目標プロファイル(IFRS9号のリスク管理方針に対応)
・動的リスク管理目的に使用されるデリバティブ(IFRS9号のヘッジ手段に対応)
・評価とリサイクリング(IFRS9号の有効性の評価に対応)

新会計モデルの会計処理は、キャッシュ・フロー・ヘッジに基づき、ヘッジの関係が有効であると評価されることを条件に、動的リスク管理目的に使用されるデリバティブから生じる損益をその他の包括利益として認識し、資産プロファイルから生じるキャッシュ・フローに基づく損益が認識するタイミングに合わせて純損益として再認識(リサイクル)する、という会計処理になると考えられています。

現在の審議では、資産プロファイルなど個別の領域について、マクロヘッジ特有の具体的な問題が取り上げられています。個別の問題については、現在のところ、1度の議論で内容が確定することが少ない印象があります。やはりマクロヘッジは難しいことを実感させる審議になっています。もう少し議論が進んでから、本ブログでもポイントをまとめて紹介していきたいと思います。


イージフ 野口


2018年3月5日月曜日

IFRS、P/Lに表示する新しい「利益」は企業が決める


こんにちは。イージフの野口です。最近IASBで取り上げられられている財務諸表の表示についてのプロジェクトは、主に損益計算書(P/L)に焦点が当てられており、とても興味深い議論が行われています。

IFRSに基づいて作成されているP/Lを見てみると、「そっけない」という印象を持たれる方も多いと思います。項目もかなりまとめられてしまっているし、純損益といった業績指標もあまり重視されていません。

確かに、かつてIFRSでは、貸借対照表(B/S)がP/Lよりも重要で純損益よりも包括利益の方が重要と考えられていたので、それは当然のことでした。しかし、今は違います。B/S同様にP/Lも重要であり、純損益の重要性が再認識されています。この考え方は米国基準や日本基準に近いということもできると思います。過去の米国基準とのコンバージェンス作業により、IFRS自体米国基準に近くなっていった部分も多いですし、損益を重視する投資家の意見がより強くなってきたことも表れています。

そのような損益「も」重視する立場で財務諸表の表示を再検討しているわけですので、基本的姿勢は損益情報の充実です。

2つの観点から新しい段階損益を導入する方向でIASBの審議が進められています。

1. 企業間比較を容易にする画一的な段階損益の表示を導入する

これは当初、営業利益の表示を導入することが検討されていましたが、却下されています。現在はEBITを採用する方向で審議が進められています。この検討は先行して進められています。(具体的な内容については、以下の記事でも紹介しています。「IFRS、EBITをP/L表示に、営業利益は不採用」「今後大きく変わる、IFRSの損益計算書」)。

2. 企業の業績を理解するために企業独自の段階損益の表示を導入する

企業が業績の説明を行う場合、純損益や包括利益財など財務諸表上の業績指標以外の指標を用いて説明することが多く、それらの指標の信頼性には疑問があるという指摘がなされています。企業の業績を理解するために重要な指標がなぜ財務諸表上にないのか、財務諸表の情報が不十分なのではないか、というのがここでの問題意識です。

これまでの審議からは、以下の方針がとられるのではないかと思います(審議ではまだ考え方の整理が進んでいない部分があり、全体的な方針について合意されているという「雰囲気」があるくらいの段階です。具体的な決定事項は今後紹介できると思います)。

  • 原則として、企業は年次報告書によって伝達される主要な業績指標を財務諸表において特定する
  • 財務諸表上特定できない主要な業績指標について、IFRSにP/Lに適合する場合は、P/L の小計として表示し、適合しない場合は、注記において別個の調整表を開示する

現行のIFRSでもっとも規定の考え方が利害関係者の要求と乖離していた部分のひとつが、このP/Lの表示だったのではないかと思います。今回の改訂は過去の考え方を大幅に刷新するものになるのではないでしょうか。


イージフ 野口由美子

2018年2月5日月曜日

IFRSのれんの償却処理、復活はなし。では、どう変わるのか?

こんにちは。今回はのれんの減損について、最近の議論を紹介したいと思います。

IFRS3号「企業結合」は適用後レビューの結果を受け、改訂されることになっています。現行基準に対する批判、不満はいろいろありましたが、のれんに関する問題が多く挙がりました。特に批判が多かったのが、のれんの事後的な処理で、現行の減損テストに対する不満は投資家からも企業からも多く寄せられていました。一番多い批判は、減損テストにより認識される減損損失が「少なすぎる、遅すぎる」というものです。

減損損失を正確に認識するため減損テストを厳格化すれば、手続きは煩雑になります。現行手続きでさえ複雑すぎるという批判がある中で、より多くの負担を求めるのもなかなか難しいことです。

解決策を探る議論が続けられていましたが、2017年12月のIASB会議で現実的に以下の3つの解決策から選択するしかない、という認識が共有されました。

  • 問題への対応を行わない
  • のれんの償却復活を検討する
  • ヘッドルーム・アプローチの導入を検討する

利害関係者から強い要請がある中で、何の対応もしないということはありえない、ということについては誰も異論がありません。そして、のれんの償却についても却下されました。最大の理由は、自動的に計算されるのれんの償却額が何の意味を持たず、有用な情報になり得ないと、多くの投資家が考えていることです。日本を中心にのれんの償却に合理性を認める意見はありましたが、投資家からの指摘を覆す新しい論拠を示されなかった、というのがIASBの見解でした。

IASBは本格的にヘッドルーム・アプローチの検討を進めることを決定しました。

現在検討されているヘッドルーム・アプローチとは、資産(または資金生成単位)の回収可能価額に自己創設のれん等の財務諸表上認識されていない資産の価値が含まれていることに注目するものです。現行の減損テストに「ヘッドルーム」を考慮することで、隠されていた減損損失を認識できると考えます。

ヘッドルーム・アプローチでは、資金生成単位の回収可能価額が財務諸表上認識されている純資産の帳簿価額とのれんの帳簿価額の合計金額を上回る金額を、未認識のヘッドルームと呼びます。これは、自己創設のれん等財務諸表上で認識されることのない資産等の価値が含まれていると考えられます。このような資産の価値は回収可能価額には含まれていると考えられますが、帳簿価額には含まれていません。この差は減損損失の過小評価につながっている、というのがこのアプローチの考え方です。

例で考えたいと思います。

企業Xが毎期末にのれんの減損テストを行います。企業Xは資金生成単位Zを保有し、過去の企業結合で発生したのれんを有しています。2期間における資金生成単位Zの回収可能価額と帳簿価額は以下のとおりとします。金額の単位はすべてCUです。

帳簿価額;                 T0期    T1期
取得したのれん                                              *100       #100
その他識別された資産(負債を差し引く)     525        510
回収可能価額                                                 730        695

*T0期における減損認識後
#T1期における減損認識前

未認識のヘッドルームは

回収可能価額–帳簿価額

なので、T0期の未認識のヘッドルームは

730-(525+100)=105

となります。

T1期の減損テストにヘッドルーム・アプローチを適用する場合、
このT0期末に計算した未認識のヘッドルームを帳簿価額に加えた金額と、回収可能価額と比較します。

T1期の減損テスト
(帳簿価額+未認識のヘッドルーム)-回収可能価額=減損損失 

(100+510+105)-695=20

のれんも未認識のヘッドルームも差額でしか求められないのでわかりにくいですが、基本的な考え方はこのように紹介されていました。

既存の減損テストの手続きで使う数値から算出できるので、追加負担は少ないとする意見もある一方で、IASBが問題を把握しきれていない可能性を指摘する声もありました。

このプロジェクトでは次に公開草案とディスカッション・ペーパーのどちらを作成すべきか決定されていませんが、ディスカッション・ペーパーを公表して意見収集すべきと、議長も強く意見を述べていた場面もありました。ディスカッション・ペーパーにてこのアプローチを紹介することになるのではないかと思います。

ヘッドルーム・アプローチが紹介された当初は、関心は集まっていたものの、あまり積極的に支持されていない印象でしたが、ここにきて一気に導入の可能性が高まってきたように感じます。今後このアプローチがどのように具体化されていくのか、注目していきたいと思います。

(本文中の例は、IASB Staff Paper, Goodwill and Impairment research project “improving effectiveness of the Impairment testing model in IAS 36 Impairment of Assets”から引用 日本語訳は筆者による)


イージフ 野口